君たちは土偶に呪われた町について聞いたことはないだろうか。
なくても仕方はない。しかしその町は実在する。
それもこの日本国にである。
青森県西津軽郡木造町(現在は合併してつがる市)。
亀ヶ岡遺跡の存するこの町は、いたるとこに土偶の怨嗟に包まれている。
亀ヶ岡遺跡は遮光器土偶の出土地として名高い。
しかし、その遮光器土偶はかるか遠方の東京国立博物館に召し上げられ、
木造町にはない。
その無念が一気に噴出した契機が1988年、青函連絡トンネル開通
を記念してひらかれた青函博だった。
こともあろうに運営委員はマスコットキャラクターとして遮光器土偶を採用し、
「しゃこちゃん」という名前をつけてしまったのだ。
土偶の呪詛はこれより暴走する。
木造町を訪れる人の多くがまず足を踏み入れるだろう木造駅。
なんとここに最大の驚愕が待ち受けている。
木造駅舎の外側には、
高さ17.3メートル・胸の厚み3メートルもある「しゃこちゃん」
が貼りついているのだ。
当初は「いらっしゃいビーム」と名付けて
列車の発着にあわせて巨大土偶の目(遮光器部分)を点滅させるとともに
夜間のライトアップも行われていたが、いらっしゃいビームが
子供に影響を与えたという理由で廃止されている。
いったいいかなる影響を与えたのか想像するだけで身の毛もよだつ。
ちなみに木造駅の「しゃこちゃん」は木製である。
駅舎も木製。木造(きづくり)だから木造(もくぞう)……恐怖である。
「しゃこちゃん」の呪いは駅舎だけに止まらない。
連鎖し、拡散し、町中を蔽い尽くすのだ。
ためしに木造の町を歩いてみるがいい。
道路、看板、街灯、マンホール、温泉、銀行ATMあらゆる場所に
「しゃこちゃん」の悲しげな姿が心霊写真のごとく、
しかし心霊写真とはくらべものにならないほどくっきりと映っている。
さらに亀ヶ岡遺跡と新津軽大橋の欄干には、「
しゃこちゃん」が立体の銅像として立ち上がっている。
君たちは土偶に呪われた町についてどう思うだろうか。
耳をふさぎ、忘れようと念じるのも無理はない。
これまでに知った者たちは誰もそうしてきたのだ。
しかし、そうしなかった者達は……。